−−何と言うか…懐かしいでござるなぁ−− 高速で屋根屋根を飛び移りながら、ドロロはふと思う。 己に向けて飛来した飛び道具を剣で弾き、続けて打ち込まれた斬撃を巧みにかわす。降り立った地に仕掛けられていたトラップも容易く避け、ドロロは敵を見据えた。 今、地球侵略を企む宇宙忍者の間で、小雪とドロロの存在が認められつつある。何らかの集団から挑戦状を叩きつけられては、ドロロ、または小雪が、対一の戦闘を深夜に行なうことが増えてきていた。ある程度の数をこなせば落ち着くはずで、これもまた修行と割り切って、ドロロは地球の平和を守る為に人知れず地道な活動を続けている。今夜もドロロの都合はお構いなしに届けられた果たし状に受け答えての手合わせ中だ。 相手にとってドロロは隙のない手強い敵なのだろうが、当人は現在少し浮き足立っているのを自覚している。 少し、体が重い。 体が重いといっても、活動にも戦闘にも影響はない。いや、体調ごときで戦闘に支障が生じるような修行は積んできていない。ケロン軍の超精鋭部隊アサシンの一員として戦場を駆け抜けてきたドロロは、そんな柔な戦闘力の持ち主ではなかった。 数日前から、違和感はあった。今日はっきりと体の重みを感じ、子どものころには馴染だった感覚を懐かしいと思ってしまう己が可笑しくて、ドロロの口元には笑みが浮かんだ。幸い口布の隠れていたために敵には見られなかったが、素顔でいたら馬鹿にするなと怒られてしまっていただろう。それすら何だか可笑しくて、やはり平常とは違うようだとドロロは気を引き締める。 唐突に、ギロロの顔が思い浮かんた。 −−連想かなぁ−− 思い出したのは子どものころ。そして不真面目さを怒られるという想像。どちらも、ギロロと関わりのある内容だ。 −−…どうしよう−− 急に、会いたくなった。こんな夜中に訪ねては迷惑だろうが、何故だかギロロに無性に会いたいとドロロは思う。きっとギロロは何事かと驚いて、それでも少し困ったような顔をして許してくれるだろう。 −−会いたい−− 思い始めると、どうしようもなく想いが膨らんできた。何故だろうと考えながらも、ドロロはその感情に素直に従う決断をする。 「−−申し訳ござらんが、手加減なしで参る」 ドロロは呟き、手に持った小刀の刃を返したかと思うと、峯打ちの一閃を残してその場を立ち去っていた。 静まり返った住宅街には、時折遠く車の走る音が届くだけで活動している人の気配はない。わずかに灯った明かりがポツポツと窓辺に見受けられるが、街すら眠り込んでいるようだった。 日向家の庭に降り立ち、主を模した赤いテントをドロロは見詰めて佇む。ここまで来たが、さすがに非常識かと訪問を躊躇っていた。特に用事があるわけでもなく、顔が見たくなったというだけなのだから尚更だ。 側に来ただけでよしとしておこうか、そう考えて踵を返しかけた時、テントの出入口が開いて銃を構えたギロロが跳び出してきた。 「…ドロロ?」 「ギ、ギロロ君…?」 そこにいたのがドロロだと見て取ると、ギロロは慌てて銃を下げ、安全装置をかけた。ドロロも驚いたが、ギロロも驚愕を隠せない表情で互いに見合う。 「どうしたんだ? お前が気配を掴ませるとは珍しい」 「あ…起こしちゃったんだね。ごめん」 ドロロが庭に現れるまでは、確かにギロロは寝ていた。しかし唐突に何者かの気配を感じて覚醒していた。テントの中から様子を窺い、どこかへ立ち去ろうとした気配を感じたのでチャンスとみて飛び出したのだ。 普段のドロロならば、ギロロが相手だろうと気配を掴ませるようなミスは犯さない。アサシンのステルス能力は、殆どドロロの体の一部のように身に染み付いていた。増しては、今は真夜中だ。ギロロを起こすような無粋な真似をドロロがするはずがないのである。 「何かあったのか?」 「ううん」 ふるふると首を振り、ドロロはあれ?と心で呟く。横に振った首はもう止まっているはずなのに、景色がぐるりと回って見えた。 「ド…ドロロっ!」 ギロロの焦った声が聞こえる中、ドロロの視界はブラックアウトしていく。 −−ああ、やっぱり懐かしい−− これもかつては馴染の現象だ。懐かしくて、少し笑ってしまったかもしれない。 ギロロ君に怒られるなぁと考えながら、ドロロは意識を手放していた。 「宇宙風邪?」 「そ。ただの」 突然倒れてしまったドロロをギロロは担ぎ上げ、クルルズラボへと突撃していた。その騒ぎにケロロも冬樹も夏美も起き出して何事かと集結している。たたき起こされた割にはクルルも全く文句は言わず、手早く診察すると結論を告げていた。 「ちいと養生してりゃ持ち前の回復力で治っちまう、薬もいらないレベルだなぁ。アサシンもひっかかるような新型宇宙インフルエンザとかだったらどうしようかと思ったぜ。人騒がせな」 クルルが素直に対応してくれたのはその危惧の為かと、ギロロは眠るドロロの顔を眺める。大事なくてよかったと、胸を撫で下ろした。 「目ぇ覚めたらスターフルーツでも食わしとけ」 「あ、我輩も食べたいであります!」 「あんたは関係ないでしょ、あんたは」 「明日一緒に買いに行こうか、軍曹」 ドロロが倒れたと言うことに心配していたケロロ達も、安堵の表情を浮かべていつものノリに戻っている。もう暫く様子を見ておくと言い張るギロロを残して、口々によかったと言い合いながら基地の医務室を後にしていた。 「…よかった」 呟くとベッドの脇で椅子に腰かけ、ギロロはそっとドロロの額に手を当てる。やや熱く、熱が出ているのかと己の額にも反対の手を当ててみた。 少しして、クスリとギロロの口元に笑みが浮かぶ。 −−懐かしい−− 子どもの頃、ドロロ−−ゼロロはよく熱を出していた。こうして熱を測っては、まだ熱い、もう下がったと、他愛もない会話をしていたものだ。 「ん…。ギロロ、君…?」 「お、目が覚めたか、ドロロ」 ゆっくりとドロロの目が開いたのを見て取り、ギロロは手を離す。何度か瞬くと、ドロロの視線は周囲を見渡していた。 「ここは?」 「基地の医務室だ。お前、宇宙風邪をひいたらしい」 言われた言葉にドロロはきょとんと目を丸くし、ついで可笑しそうに笑った。 「修行不足だねぇ、僕」 「たまにはいいんじゃないか? ケロロと冬樹がスターフルーツを買いに行くと言っていたぞ」 「大丈夫だよ」 まだ可笑しそうに笑いながら、ドロロは容易に身を起こした。 「…どうしてあんなに会いたいって思ったのか、わかった」 「何のことだ?」 「ううん。何でもない」 倒れてしまったのは、ギロロの顔を見て気が抜けたからだとドロロは気付いた。「ここ」ならば安全だと、知っている。無意識にギロロへの甘えが出ていたのだ、と。 「もう暫く、ここで寝ているといい。すぐに治るさ」 「うん」 やんわりとギロロの手に促され、ドロロは再びベッドへと身を横たえる。ポフポフと布団の上から軽く叩かれる感覚が心地いい。 「ギロロ君」 「ん?」 「…キスして…いい?」 ギロロの側は、快い。 |
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逆っぽいがギロドロと言い張らせてください。 受け側がキスしていい?って言うのにモエ。 このお題は始めからドロロに言わせたいと企んでいましたとさ。 |
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