皆既日食。
 それは地球ならではの現象。月の四百倍大きな太陽が、月の四百倍遠くにあるという偶然の一致が生み出した天体ショー。地球人が楽しみにしているのは当然ながら、情報ツウの宇宙人の間でも、密かに心待ちにされている宇宙的イベントである。



『クルル曹長、クルル曹長』
「ナンだぁ? 隊長」
 ラボの呼び鈴が押され、その音に続いて呼びかける声が起こる。誰かなんて確認するまでもない。ケロロ小隊地下秘密基地の魔窟であるクルルズラボにわざわざ足を運ぼうなんて酔狂者は、一人だけだ。
 クルルは呼びかけに応えるが、上司であるケロロを迎えるでもなく行なっていた作業を続けている。ラボの出入口前でぽつねんと佇むケロロの姿が、監視カメラの映像でモニターの隅に写っていた。
『クルル曹長ってばー』
「だから何だよ」
『オハナシがあるの! 入れて欲しいであります』
「別に鍵はかかってないぜぇ?」
『いいから開けろや!』
 いつもは勝手に入って来るくせに何故かクルルに扉を開けさせると、ケロロはひょこひょことラボへと入り込む。その手は映像通り何かを持っているわけでもなく、クルルの首を傾げさせた。
「一体何だよ、隊長」
「お出かけしないでありますか?」
「は?」
 自他共に認める超インドア派のクルルに向かって、ケロロは予想外の誘いを口にした。思わず聞き返してしまったクルルの、珍しくもぽかんと開いた口を見詰めて、ケロロは笑う。
「手が離せないってワケじゃないみたいだしさ、ちょいとご一緒にオサンポでも」
 その確認のために開けさせたかったのかと、クルルは内心溜息をつく。誰かに散歩に誘われるなど初めてだ。しかもケロロに誘われるとは、少し、嬉しい。行こうかと思う反面、散歩など時間と体力の無駄使いだと拒否するキャラクターであることをクルル自身は知っている。どうしたものかと表情をしかめていた。
「ほんのちょっと行きたい所があるんでありますよ〜」
「…一人で行ってくれば?」
「一人じゃネ」
「誰か他のヤツを誘え」
「いや、あのね、クルル曹長」
「面倒」
 出かけることを拒否するクルルの態度に、ケロロは不機嫌な表情を浮かべると怒り出す。
「ナニ、その態度っ! 少しは聞く耳持つでありますよ!」
「そういうのを逆ギレって言うんだよ、隊長」
「逆でも表でもいいから聞けやゴラァ!!」
「面倒」
 売り言葉に買い言葉で、クルルはつい頑なに拒んでしまった。プチンと何かがキレたような音と共に、ケロロはあーいーよもーいーよと文句を言いながら踵を返す。
「冬樹殿と行ってくるからいいであります!」
 クルルを誘った割には、ケロン人ではなく地球人の名が出たことに違和感を持ち、クルルは何気なくその背に向けて訪ねてみた。
「ドコに?」
「悪石島!」
 ずいぶんとマイナーな島の名前が出た。いや、「今」は有名な島かと、クルルは最近のニュースを思い出す。その島は、今世紀最長の皆既日食を見ることができる場所だ。
 衛星に恒星がきれいに隠れる現象など、地球以外では見られない。地球の衛星である月は異常に大きく、他の星では衛星が小さくて恒星を全て覆い隠すことはできないのだ。
 イベントの好きなケロロがこのチャンスを逃すはずもなく、皆既日食を見に行くつもりなのが島の名前だけで予測できた。
「ちょいとの散歩じゃねぇだろ」
 つっこみつつ手近にあったペンをぽいっと投げ付ければ、うるさいと文句を言いながら投げ返される。
「クルル曹長でも、興味はあるんじゃないかと思ったのであります。でもちょっと遠いから、面倒って言われそうで黙っていたのに」
「だからちょっとじゃねぇって。ク〜ックックック…ポチッと」
 冬樹ならば、目を輝かせて同行するだろう。それでも他の誰でもない、自分を真っ先に誘われたことでクルルは十分満足だった。愉快そうな笑い声を上げると、いつも携帯している小型端末を取り出してボタンを押す。
「ゲ〜ロ〜っ!?」
 ラボから出て行こうとしていたケロロの足元がスコンと開き、その身を更なる地下へと滑り落とす。クルルも飛び込むと、その穴は姿を消した。
「あたたた…ゲロォ!?」
「おっと」
 どこかの床に転がったケロロがぶつけたお尻を擦っていると、何かに踏ん付けられて再び引っくり返る。その脇で綺麗に着地をしたクルルは、何事もなかったかのように歩を進めた。
「ちょっと! クルル曹長!! ナニすんのさ!!」
「ギブ&テイク」
「ゲロ? ナニが?」
「ま、気にすんな」
 話しながらもクルルが「操縦席」に着いたのを見て取り、ここは船の中であることにケロロは気付いた。クルルは出かける気になったのだと、嬉しそうに顔がほころぶ。
「俺様の天気予報では、悪石島は大雨だ。地上がいいなら硫黄島かな。海上か雲の上ならどこでもいいが、どこにする? 隊長」
「他の変化も見たいから、地上がいいであります」
「りょ〜か〜い。他のヤツは誘わなくていいのか?」
「クルルに任せるでありますよ」
「面倒。ク〜ックックック…」
 何度目かの面倒という言葉を呟くと、クルルは船を発進させていた。 


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うん、リク内容に合っていないのは承知しています。「お気に入りの場所→行きたい場所」にして、日食ネタ。やるならイマだ!みたいな勢いで。すみませんorz

どっちもベタボレ。デキてても一方通行両想いでも、お好みで。


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