朝の侵略会議が終了してクルルがさっさとラボへ立ち去った後、ケロロ、ギロロ、タママの三人は暫し雑談をしていた。ドロロは朝から町内清掃とかで会議はお休みしている。モアも今日は姿を見せていない。
 雑談といえばのどかな雰囲気だが、正確にはケロロVSギロロの応酬延長戦だ。だらけたケロロの態度にギロロが怒り、売り言葉に買い言葉でケロロがキレて応戦し、何だかんだと怒鳴り合いを続けている。時折同意を求められはするが日和見を決め込んでいるタママは、上手く隙を見つけて立ち去りたいと考えているのだが、クルルに先をこされてタイミングがつかめない。
 そうこうする内にケロロはふと何かを思い出したように天井を仰ぎ、次いでギロロの顔を見てニヤリと笑った。
「そう言えば、今流行っているらしいコトがあるであります」
「話を逸らすな! 大体、貴様がそんな態度だから…」
「何ですぅ? 軍曹さん」
 ギロロの説教モードを上手く逸らすことができたら逃げ出すチャンスかもしれないと、タママはケロロの話に乗って問い返す。
「隊長への忠誠心を試す儀式みたいなものでありますかなぁ」
「…そんなのしなくったって、僕は軍曹さんに忠実ですぅ」
 忠誠心を試すといえば、無理難題を押し付けて遂行しようとするかどうかを見るというのが常套手段。例えば宇宙ケロベロスの肝を取ってくるとか、宇宙千尋の谷を命綱なしにロープ一本で渡るとか。トバッチリかと少し嫌そうに応えたタママだったが、その様を見てケロロは笑っている。
「内容は至極単純でありますよ。あっと言う間に終わるしね〜。ギロロ伍長!」
「はっ!」
 タママに話し掛けていたかと思ったら唐突に呼びかけられ、思わずギロロは敬礼で応えた。隊長への忠誠心云々の話に、反射的に軍人としての態度が現れてしまったギロロに向け、ケロロは驚くことを告げる。
「我輩にキスをすることを要求する!」
「了か…何だとぉっ!?」
「ええーっ!?」 
「ゲ〜ロゲロゲロ。流行ってるって、コ・レ。ギロロ伍長は知っているでありましょう?」
 ケロロはうりうりとギロロの眼前に足を突き出し、驚愕の声を上げて目を丸くした二人を愉快そうに見た。
 誰が始めたものか、上司の立場になった者の間で周期的に流行るものがある。それは、部下にキスをさせるというものだった。忠誠心を見るためのもので、者によっては足にさせるパターンもある。そんな説明を軽くタママにすると、ケロロは意地悪くギロロの顔を覗き込んだ。
「我輩はヤサシーイから、場所は指定しないでありますよ。軍人軍人と言っているギロロ伍長君、チミはどんな忠誠を示してくれるでありますかなぁ〜?」
「ケロロ…貴様と言う奴は…」
 明らかに単なる嫌がらせだ。怒り心頭と言った体のギロロに、これはいつ武器が出てきてもおかしくないと、タママはさりげなく構えていつでも超空間移動に入れるよう準備をした。
「その前に、タママ二等!」
「は、はいですぅ!」
 逃走する気満々であったタママは、呼びかけられると慌てて敬礼で返した。上手く怒りのやり場を逸らされて、ギロロは舌打ちをすると視線をよそへ向ける。
「タママ二等はどうでありますか?」
「え、僕…僕ですぅっ?!」
 ケロロにキスをするという嬉しい話を振られ、タママは頬を赤く染めてもじもじと身動ぐ。こんな忠誠心の確認ならいつでも何回でも喜んで!と内心ガッツポーズをしつつケロロを見詰めた。
「えと、えと…軍曹さん」
 はにかみつつそっとケロロの頬にキスをすると、キャーっと叫びながらタママは会議室を飛び出して行った。その様をギロロは唖然と眺めていたが、ケロロの笑い声で我に返る。
「どうでありますか、ギロロ伍長。タママ二等は見事にやってのけたでありますよ」
「やってのけたと言うのか? あれは」
 どう見ても嬉しそうにしか見えなかったが。そう思いつつ、何だかんだと煩いケロロを見遣る。タママの態度ですっかり怒りはどこかに行ってしまった。
「…ゲロ?」
 得意げにギロロをからかっていたケロロだったが、引き寄せられて言葉を切る。今度はケロロが目を丸くする番だった。
 仏頂面ながらもケロロの帽子を掴んで口元に持っていった後、ギロロはしてやったりとでも言いたげに微笑みすら浮かべてみせて手を離す。パクパクと口を動かして絶句しているケロロに背を向け、片手を上げると会議室を出て行こうとした。
「ギ…ギロロっ」
「俺をからかうつもりだったのだろうが、残念だったな」
 慌てたようにケロロは声をかけるが、ギロロは一言残して本当に出て行ってしまう。その扉を、取り残されたケロロは茫然と眺めていた。

「…ガラにもない」
 ケロロのただの嫌がらせだということは分かっていた。その挑発に乗ってらしくないことをしてしまったと、ギロロは赤面しながら基地の廊下を歩く。
 先にタママがしてなければ、そしてタママや他の者がその場にいれば、跳ね除けることもできていた。しかしケロロと二人だけになってしまったことで、意地のような物が湧きあがり、ケロロをからかい返してやろうと思い立ってしまったのだ。
 背後から聞こえた慌てた声から考えて、ケロロは今頃自己嫌悪で落ち込んでいるかもしれないが、恥かしくて顔を合わせ辛い。参ったなと溜息を零した。と、その目の前に青い人影が角を曲がって現れる。
「ギロロ殿?」
 清掃活動を終えたドロロが、まだ会議中かと様子をうかがいに基地に現れていた。ギロロの姿を見て、声をかける。
「いかがなされた。顔が赤いでござるよ」
「いや、大したことではないのだが」
 起こったことを告げるギロロに、ドロロは少し困ったような笑みを浮かべて肩をすくめる。
「それは…ケロロ君が悪いよねぇ」
「俺も大人げなかったとは思っている」
「反省しているんだね」
 ドロロはクスクスと笑い、しょんぼりと肩を落としているギロロの手を取ると、会議室に向かって歩を進めだした。
「お、おい、ドロロ?」
「拙者一人仲間外れは嫌でござる故」
 ニコリと笑みを浮かべたドロロにギロロは何のことだと首を傾げるが、そのまま引き摺られて先ほど出てきたばかりの会議室へと舞い戻ることになった。
 会議室の中にはまだケロロがいて、ドロロに連れ戻されたギロロに、困ったような表情を浮かべてみせている。
「隊長殿」
「あ、何? ドロロ」
 声をかけると、戸惑うように返事が返る。ケロロも十分反省しているようだと、ドロロは微笑んで歩み寄った。
「拙者も、よろしいでござるか?」
「何を? …ゲロ?」
 ドロロはケロロの手を取ると、照れくさそうに口布をずらし、その甲にそっとキスをする。茫然と眺めていたケロロの目の前でやっぱり微笑って、手を離した。
「ド…ドロロ?」
「お前、マスク…」
「二人の前じゃなきゃ取らないよ。友達だもんね、いいでしょ?」
 幼い頃も含め、ほとんど見たことのない素顔でドロロは少し恥かしそうに笑っている。
 アサシンのマスクは劣悪な環境下でも活動できるようにとの配慮もあるが、その人相が割れないようにすることが主な目的の標準装備だ。特殊な活動をする彼等は、敵のみならず時には仲間の恨みや妬みを買うこともある。それらの悪意からアサシンを守るためのものだった。
「ドロロ…」
 突拍子もないことをやってのけたドロロに対しての驚愕が落ち着いてくると、ギロロは己とケロロに対して今の気まずさを解決する道をドロロは示してくれたのだということに気付いた。やはりこいつには敵わんなと、苦笑を零してドロロを見詰める。
「それがお前の答えなんだな」
 ギロロは呟くと、まだどうリアクションを取っていいのか悩んでいるらしいケロロを小突いた。
「貴様でなければ冗談だろうと誰がするか。俺をみくびるな」
 隊長が部下の忠誠を試すものであったとしても、相手がケロロでなければギロロは従いはしなかっただろう。ケロロだからしたのだと、よそを向きつつギロロは告げる。その言葉を聞き、ケロロが安堵したように大きく息を吐き出した。そんな二人を見て、ドロロは微笑みながら元通りに口布を戻す。
「…性質わり」
「っ、誰の所為だと思っている! 誰のっ!!」
 零したケロロの言葉に反応してギロロが怒鳴る。振り返ったギロロと目が合い、ケロロはニーっと笑みを浮かべた。唐突に可笑しさがこみ上がり、ギロロも笑ってしまう。

 会議室からは三人分の愉快そうな笑い声が、暫く続いていた。



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タママはやっぱりこうでしょう。キャーって言いながら跳び出していくところを想像したら可愛かったんだ。ところで…あれ?幼馴染ネタになってしまったぞ。おかしいな、予定ではケロロ総愛されな話のはずだったんだが。こんなシチュじゃないとギロロはしないよね、とか思ったのが敗因か。で、ケロロはきっと戸惑うよねとか思ったんだ。そうしたらドロロは大人な対応になりました。彼はデキた大人ですから! 予想していたのとはやっぱり違うかもしれません。申し訳なく…orz 


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