※ネタバレになるのだが仕方がない。24時はなかったものとしてお読みください。 「明日、ケロン式エッグハントを行なうであります」 それはいつもと同じ朝。定例会議の席に珍しくもケロロは早々と到着しており、小隊メンバーが全員が揃ったところで無駄な能書きを垂れることもなく切り出していた。 「エッグハントだとっ!?」 「真でござるか、隊長殿?!」 ケロロの言葉を受けて、ギロロとドロロが驚愕を浮かべて立ち上がる。クルルは既に知っていたらしく、忌々しげな表情で舌打ちをしていた。 「エッグハント…って、イースターの?」 一人要領を得ない顔で、タママは首を傾げて訊ねた。 エッグハントとは、地球では復活祭(イースター)に付き物の、子どもに楽しいイベントだ。装飾されたタマゴやタマゴ型の入れ物に入ったお菓子、あるいはタマゴ型をしたお菓子があちこちに隠され、それを捜してまわるイベントである。今年のイースターでは西澤邸敷地内をフィールドにしたエッグハント大会があっており、タママはもちろん、誘われて冬樹も夏美も、ケロロ達も、みんなで楽しく一日を過ごしたのは記憶に新しかった。 「あ、でもケロン式ってことは、何かが違うってことですぅ」 他の三人の態度から、楽しいイベントではないのは確実だ。一体どんなイベントなのかと、タママは四人の顔を順に見ていく。 いつになくシリアスな面持ちでケロロ達は暫し沈黙していた。その間蚊帳の外だったタママがキレずに済んだのは、ただならぬ事態を感じさせる雰囲気が場を占めていたからだろう。 「あ、と。タママ二等に説明しとかなきゃネ」 やっとケロロが事態の把握をしかねているタママに気付き、口を開く。 「…貴様がさっさと侵略せんからこんなことになるのだ」 「選択は二つに一つ…。隊長殿」 「ま、何にしても面倒なコトには変わりねぇよな、隊長」 沈黙を破ったケロロに続いて三者三様の言葉がケロロに向けて発せられるが、当人は取敢えず聞き流してタママを見詰めた。 「一言で言うなら、催促、でありますかなぁ」 笑顔で言った言葉だったが、ケロロのその笑顔もどこか真剣さを感じさせていた。 ケロン式エッグハント。それはタマゴを捜すイベントであることに変わりはない。しかしそのタマゴは、ケロン産の生物兵器の卵である。圧倒的な強さを誇る生物兵器の、たった一つの卵だ。 かつては不利な戦況に陥った部隊を助太刀するために投入されていた兵器だったという。それが時代とともに様変わりし、現在ではいつまでも任務を完遂できない部隊へと、督促状のように送り付けられるものになっていた。 タマゴにはガーディアンと呼ばれる一部隊が付いて来る。ガーディアンは現場の部隊よりも上位の隊が勤め、彼等の守備を掻い潜ってタマゴを手中に収めれば現状維持となるが、孵化してしまえば現場の指揮権はガーディアン側に移るのが習しだった。エッグハントに失敗した隊はガーディアンの下に付き、任務完了まで下働きとなる。奴隷のように扱われても文句は言えない。要するにペナルティだ。 しかし、上位の隊が強力な生物兵器を連れて指揮を取りにやってきてくれるのだから、侵略に難航している現場の者としてはありがたい事態にもなりうる。エッグハントが行なわれた際には、作戦失敗としてのペナルティはないのだ。 「とまぁ、こんな概要なのであります」 「つまり、タマゴを見つけられなかったら雑用に降格ってことですぅ?」 「雑用ならまだいいが、最悪特攻隊。ク〜ックック…」 「そしてポコペンはそいつらに侵略されるということだ」 のらりくらりと遊んでいるケロロ小隊とは違い、確実に地球を侵略するつもりで来る部隊だ。投入される生物兵器も、ウチュボカズラのような鉄砲玉クラスではない。上は自立型侵略兵器Xシリーズに匹敵するモノもある。当然、地球人は敵になりえない。 「そこで選択肢の問題になるのでござる。ハントを行なうか否か」 ドロロが足元を見詰めながら呟いた。ドロロは当然ハントを行なうつもりだ。しかし、ガーディアンはケロロ小隊よりも上位の隊であり、ケロロ達が侵略を優先するのであれば、みんなも敵に回さなくてはならない。ケロン式エッグハントのタイムリミットは現地時間の一日、二十四時間だ。その間にたった一つの卵を敵の目を盗んで一人で捜すのは、アサシンと言えど難しい。 「こればっかりはみんなで決めるしかないでありますからなぁ。どーする?」 これは本部の決定だ。ケロロ達に回避する道は用意されていない。 「エッグハントだ!」 「エッグハントですぅ!」 ケロロの質問に対し、ギロロとタママが即座に声を揃えて宣言する。一瞬ドロロは目を丸くしたが、すぐにウルウルと瞳を潤ませて、二人に駆け寄っていた。 「ギロロ殿、タママ殿…っ!」 「勘違いするな。人の手など借りんというだけのことだ」 「ポコペンを侵略するのは僕達ですぅ」 「ま、俺は面白けりゃドッチでもいいけど」 「面白けりゃって…確実にハント側じゃん」 雑用にされて面白いはずがない。クルルもハントに賛成のようだ。 どうやら意見の一致をみた一同を眺め、ケロロはどこか安堵したように笑みを浮かべていた。 ケロン式エッグハントのスタートは、前線基地のある地の夜明け。日が昇ると同時に卵の孵化装置へとスイッチが入り、翌日の夜明けには卵が孵る。当然その前にはガーディアン達も来星し、現場の隊の情報収集を始めているはずだった。 「勝負は前日から始まっている。浮かれてみせてハントの意志無しと油断させるか、意気込みをみせて動きを誘い、敵を早めに見つけるか…」 「ま、ポコペンは来星チェックの厳しい星だし、そっちから誰が来たかは容易に検索できるっすけど」 「エッグハント中はポコペン人に見付かるわけには行かぬでござる。市街地は避けて隠されていると考えるのが妥当」 「案外とモモッチの家だったりして」 「あそこは広いでありますからなぁ…ゲロ?」 作戦会議を始めたケロロ達があーでもないこーでもないと案を練っていると、不意に会議室の扉が開かれた。既に冬樹達は学校に行っている時間だ。モアでも来たのかと、一同は口をつぐんで出入口に注目する。 「な…っ!?」 開いた出入口に立つ紫色の人影に、ギロロが目を見開いて立ち上がった。ケロロ、ドロロも信じられないといった面持ちでその人物を見ている。 「ガルル…? 何故ポコペンに」 「ガルルお兄さん…」 「ゲロぉ? 何でギロロのにーちゃんがここに?」 「…お久しぶりです。ケロロ軍曹殿」 ガルルは弟には目もくれず、ケロロを真直ぐ見詰めて敬礼をした。その態度で、ギロロの頬を冷や汗が伝う。 ガルルは公私を完璧に切り替える。弟として、ガルルのその態度をギロロはよく知っていた。遠い地球までやってきておきながら、肉親であるギロロに挨拶するでもなく、昔から知っている年下のケロロに対して敬語を使い、現地の「隊長」として扱っているからには、ガルルは何らかの任務で現れていることが明白だった。今このタイミングでの任務といえば一つしかない。 「ガルル…。貴様が、ガーディアンなのか」 「何ですとーっ!? ちょ、ガルルにーちゃんって言ったら、中尉じゃん! ありえないし!!」 「中尉ですぅ!? めちゃ上じゃないですかっ!」 「理解が早くて幸いです。ケロロ軍曹殿、明日は私共がガーディアンを務めさせていただきます。本来ならば事前に顔合わせをするべきものではありませんが、今回は挨拶をしておくようにとの達しがありましたので失礼させていただきました」 あくまでも軍人としての態度を崩さず、ガルルは淡々と用件を述べる。 エッグハントが始まるまでは姿を見せないのがガーディアンの定石だ。誰がいるのかが分かってしまえば、ケロン軍のデータベースからある程度の情報が収集できてしまう。そこで敢えての顔見せの達しということは、本部の意向が窺えた。 「本気で戦え、と。そういうコトっすか」 「…それでは失礼します」 クルルの質問へと答える代わりに不敵な笑みを浮かべ、ガルルは綺麗な敬礼をすると去って行った。扉が閉まるなり恐ろしい勢いで情報収集を始めたクルルを除き、誰もが絶望的な面持ちで肩を落とす。 「ガルル中尉殿が敵でござるか」 「確かスナイパー…だったでありますなぁ」 「ああ。今やケロン軍最高精度スナイパーと謳われるほどになっている」 「それって、どこからでも狙われるってコトですぅ?」 姿が見えさえすれば、何キロ先からでも狙われる恐れのある敵だ。ガルルのフィールドで戦われたら、反撃する術はない。 「…だから、顔見せなんじゃないっすか?」 どんよりと沈んだ空気を感じたのか、せわしなく指先を動かしながら、クルルがPCの画面を見ながら呟いた。 ガルルの存在を知っていなければ、ガーディアンの姿を捉える間もなくケロロ小隊は全滅だ。だが、スナイパーがいると知っていれば、それなりの対処はできる。そんな説明を受けて、少しケロロ達の表情が和らいだ。 「それで貴様は本気で戦えというメッセージだと…」 「以前に作戦中止の可能性の通達をケってますからねぇ…。当然こっちがエッグハントで来るのはミエミエ。だったら、その腕見せてみろってことじゃないっすかね」 中尉が率いるほどの隊を出し抜けたならば、確かに信頼性は上がるだろう。高いハードルを設定されてしまったが、受けて立つしか選択肢はない。 「ま。決定事項にとやかく言っても仕方がないであります。ケロロ小隊! 明日に向けて、全力で準備に取り掛かるであります! あ、少なくとも三時間は寝るように」 「了解!」 ケロロの号令に元気よく返答した一同は、戦闘準備のために基地内へと駆けて行く。一人会議室に取り残されたクルルは、相変わらずPCを扱いながら渋い顔をしていた。 −−それだけなのか…?−− 高いハードル。それだけのために、ガルル中尉ほどの人物がガーディアンに選別されるものだろうかと、クルルは自分に問い掛けていた。 −−何か、ある−− 他の理由があるはずだと、クルルの直感が告げている。 それが何なのか、見つけなければならない。そのためにはガルルに関するデータだけでは不十分だ。 本格的な情報収集に入るため、クルルは一度手を止めるとクルルズラボへと向かって行った。 続く +++++++++++++++++++++++ 24時がなかったものとしての話なので、みなさんガルルをよく知りません。7巻おまけの「史上最小之侵略<The Lost Episode>」で一応クルルもタママも会ってますが。どうでもいいけど相変わらずの見切り発車です。どんな話になるのやら(他人事のように) |
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