西澤タワーまではソーサーであれば大して時間もかからない距離だが、それではガルルに狙ってくださいと言っているようなものだ。町並みの中を、物影を伝って移動して行く必要がある。とりあえずの敵はガルル一人。三人が固まって向かうよりも、散開して三方から奇襲する方法をギロロ達は選んだ。
「ム…?」
 片目に装着したミッション用小型モニターの画面と受信機に一瞬ノイズが走る。どうしたのかとギロロは歩を緩めた。
「こちらスカル1」
 通信を行なってみるが、返事はない。
「応答しろ、ナルト1」
 再度声をかけてみるが、通信機は沈黙したままだ。ドロロも、タママも、つながらない。
「活動を開始したということか」 
 これで敵にオペレーターがいることは分かった。こちらの連絡を途絶えさせ、孤立させようという魂胆だろう。電脳戦を行なうべきそこはクルルの戦場であり、情報の宝庫だ。連絡を取れないのは少し面倒だが、一歩前進できたのは確かである。
 ジャミングなど、戦場で慣れている。ケロロには適当にやれと言われているし、心配してやる必要があるほどの軟弱者はケロロ小隊にはいない。
 溜息を一つついただけでギロロは気持ちを切り替え、予定通りの活動に戻っていた。

「あ、いたっす。せんぱ〜いっ!」
「タマ?」
 どこか聞き覚えのある声で、聞き慣れない呼びかけをされて、タママが立ち止まる。声の聞こえた方向を見遣ると、水色のケロン人が大きく手を振りながら駆けて来ていた。
「た…タルル!?」
「お久しぶりっす」
 へらへらと笑いながら、タルルはタママの側まで寄って来た。何をしに来たのかといぶかしむタママだったが、それよりも気になることがある。
「お前…急にフケたな」
「うっ、気にしてるんすから言わないで欲しいっす」
 以前に会った時は、タルルもタママと同じ幼年体だった。しかし今のタルルは尻尾がとれ、顔付きも変わっている。立派な成年体に成長していた。
 ケロンの軍人に幼年体の姿の者は少ない。可愛いからいいんだと自分に言い聞かせていても、タママは少なからずコンプレックスを抱いていた。若さの象徴である尻尾も、未熟者の証のようで時々嫌になる。後輩に追い抜かれて、己の成長の遅さが際立って感じられていた。
「で、何しに来たんだよ。今取込中なんだけど」
「知ってるっす」
 多少苛つきつつ問いかけると、予想もしない返答が返る。まさかという思いが強いが、タママは距離を取りながらその顔を真直ぐ見詰めた。
「…フェアプレイ精神は褒めてやる。だけど、後悔すんなよ」
「さすがっすね、先輩」
 タルルはガーディアンだ。
『知っている』との一言でそのことにタママは気付き、不意打ちをよしとしなかったその態度には敬意を表す。
 ケロンでは訓練校生となるのは一般的なルートであり、ほぼ全員が予備軍生を経験する。しかし全てが実際に軍に入るわけではない。その中でタルルはケロン軍に入隊し、しかも中尉の部下となっている。将来性ありと認められた証だろう。後輩の躍進は喜ばしいが、妬ましいのも確かだ。だが、タママだっていくつものあの頃伝説を持っているケロロ軍曹の下で、選ばれた特殊先行工作部隊の隊員として働いている。立場は負けていないのだとタママは己に言い聞かせ、何とか平常を装っていた。
「タマゴの行方、吐かせてやる」
「できるっすか?」
「すっすうるせぇよ。それと、いつ弟子から後輩にランクアップしやがった」
「正直、もうちょっとランクアップしたいんすけどね」
 きっちりと突っ込むタママのセリフへと、笑みを浮かべてタルルは受け応える。その笑みに、かつての無邪気さはもうない。
 一抹の寂しさを感じつつ、タママは油断なく臨戦態勢を取っていった。

 背景は何もない空間に足場となる岩場が浮いている。無数存在するその足場が、次々と破壊されていっていた。誰もいない空間で宙を時折閃光が走り、閃光を追うように岩場が切り取られ、破裂し、崩壊して行く。
 ここは暗殺界。何者にも邪魔をされない、アサシン専用の戦場だ。
尤も、誰かがいたとしても何の役にも立ちはしない。アサシンの能力で最も恐ろしいのが、ステルス能力。気配を消し去った彼等を捕捉することは、どんな科学力を駆使しても不可能だった。
−−この者、できる…!−−
  暗殺界に飛び込むなり、鋭い攻撃がドロロを襲ってきた。わずかな攻防でこの暗殺界の主は強いと判断し、ドロロは気を引き締める。
 ドロロの前に姿を現したのは、左半身をプレートに覆われた灰色のケロン人だった。ドロロをゼロロと呼ぶ彼は、確実にドロロを知っている。同じアサシンの者のはずだが、ドロロは全く記憶にない。だがその事が、返ってこの灰色のケロン人はアサシンなのだとの確証を与えていた。
 シュキンと鋭い音をたてて、ドロロの身を蒼いバトルスーツが包んだ。角を生やし、鋭い爪を装備した鬼のような出で立ちに、灰色のアサシンの目に愉悦の表情が浮かぶ。
「鬼式をまとったか…。そ…うでなければ、面白くない…」
「拙者に遺恨あるものとお見受けする。が、避けるわけにはいかぬ」
 アサシン時代にうしろにいた者達。記憶にも記録にも残らぬ、影の者。存在を残せぬ者達にとって、ドロロを倒すことのみが、その存在を誇示する要因に成り得た。
 恐らくここにターゲットはない。アサシン同士の戦いの場には、凄まじい爪あとが残されることになる。強力な生物兵器も、まだ孵化していない卵の状態では身を守る術を待たないので、こんな所に置いていては破壊されかねなかった。つまり、彼の目的はドロロの足止めだ。
 それでも、ドロロは彼をここから出さないために戦うしかない。手だれのアサシンが相手では、一般兵に対応はできないからだ。ギロロならばなんとかなるかもしれないが、彼にはガルルの相手をするという大役が待っている。
「邪魔はさせぬ。みんながタマゴを見付けるまで、拙者は貴殿をここに足止めする!」
 くしくも目的は敵側と同じになってしまった。『アサシンを参加させない』為に、アサシンの手が削られる。その能力故の、仕方のない立ち位置なのかもしれない。
 記録に残らない激戦は、静かに人知れず始まっていった。

 ジャッと音をたてて展開したいくつものモニターとキーボード。その中央で、クルルが作業をしている。ヘッドホンの根元が伸び、そこからいくつものコードが周囲の機器につながっていた。
 開いたモニターのいくつかはすでにケロン軍のマークが表示されるのみになっている。作業中のものも、どこかに必ず同マークのウインドウが開いていた。
「情報経路の障害を最優先に攻めてきてやがるな。協力体制の阻止とエッグハントの妨害だ。全システムの掌握が目的じゃないだけに、ガードが堅ぇ」
 一部を取り返しても、別経路から奪い返される。全てに手を出してきているわけではないので、こちらの動きを捉まれ易かった。
 忙しいクルルの後ろで、何も手伝えることがないケロロは手持ち無沙汰にその様を眺めている。小隊の中では一応情報電子機器を扱える方ではあるのだが、それでもクルルが何をしているのかサッパリだった。
−−これが、クルルのマジモード−−
 複数の端末を駆使し、入力を行ないながらも恐らくは視覚情報以外にも変換した情報を収得し、対応している。一体いくつの作業を並行して行なっているのだろう。いつものゆるゆるとした動作が嘘のようだ。
「…隊長」
 どのくらいそうしていたのか、黙々と作業を行なっていたクルルが唐突にケロロを呼んだ。
「ケロ? どうしたでありますか、クルル曹長」
「オシゴト、やる」
 手だけが別のイキモノのように動きながら、クルルは気になることがあるとケロロに告げる。
「情報系以外に、攻められているところが何ヶ所かある。その中でも度々登場すんのが、この基地のセキュリティシステムだ」
「乗り込む気ってコト…?」
「いや、その必要はねぇだろ? だから、おかしい」
 制圧であれば基地の占拠は重要だ。だが、ガルル達はタマゴを守ればいい。ケロロ小隊の基地に乗り込む必要性はない。
「外にタマゴは見付からない。まずは中尉が、そして今は誰かが持っている、暗殺界にある、この二つを削除すると、後一つ設置されている可能性のある場所がある」
 まず捜さないし、オーバーテクノロジー検出装置も避けて通る場所だと説明され、ケロロも思い当たったのか、元々丸い目を更に丸くして信じられないといった表情を作った。
「まさか…、ここ…?」
「可能性の一つだがな」
 上からの通達で顔見せと称して、ガルルは基地に来たのだ。そのときに、どこかに隠すだけの余裕はあった。ここはケロン製の機械がひしめく前線基地。検出装置による検索では捜しようがない。孵化装置が機器の発する電波を遮断するつくりをしていたら、基地内の監視モニタか直接か、目視によって捜すしか方法がない場所だ。基地のセキュリティシステムが手に入れば、タマゴが置かれた部屋の扉をロックできる。周囲にトラップを仕掛けることもできる。システム入手を目指すだけの価値はあった。
「残念ながら動けるのは隊長だけだぜぇ〜」
「あの…メチャ広いんすけど…」
 嫌そうに文句を言いながらも、ケロロの足は出入口に向かう。
 どんなに広かろうとも、そこは勝手知ったる己の城。外で狙撃にビクビクしながら探索したり、誰かと戦うよりははるかにいいし、できることが見付かったのは喜ばしい。ケロロは指揮をとる者とはいえ、現在基地内に敵はいないし通信すらできないのだ。
 クルルの後姿へとガンバってネと軽く言い残し、ケロロは己にできることをするために、基地の廊下を駆けて行った。



続く

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よし、全員ばらけたぜ。何の卵かは初めからバレバレだと思うけど、先に言っておきますがもう一人の彼はでてきません。期待されている方、申し訳ないorz この後はガルルVSギロロ、ガルルVSケロロ…か?


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