奥東京の上空を、無数の光線が飛び交う。
 予測通りビームライフルを装備したガルルが、ギロロの到着を待つまでもなく攻撃に出ていた。ギロロが西澤邸敷地内に入るよりも早く狙撃を受け、物影へと転がりながら振り仰いだ空に飛行ユニットの羽を広げた点を見つけたのは随分前だ。
−−クソっ、本気か、ガルル−−
 撃たれたのは、左腕。かすったのは、右肩。衝撃で銃を取り落としてしまったが、シールドのお陰でどちらも健在だ。ビーム吸収シールドを装備してなかったら、早々とギロロは脱落していただろう。銃を扱うギロロにとって、腕が使い物にならなくなっては戦力の殆どを奪われたも同然だった。
 居場所はバレた。距離がありすぎ、どうあがいても接近はガルルに気付かれる。ならば中央突破だと、ギロロは飛行ユニットを装備して空へと舞い上がる。限界速度ギリギリで、一気にガルルとの距離を詰めにかかった。遠距離では、ガルルと渡り合えない。
 不規則に左右への移動を行いながら、狙撃の隙間をぬってガルルへと近付く。紫の体色が確認できるようになり、漸く己のフィールドに入り込んだことを確認すると、ギロロは銃を構えていた。
「まあ合格点だな。お前の判断は正しい」
「何のことだ」
「シールドを利用するとは思えんお前が、チームの為に己を曲げた。その判断が、まだ戦力を保たせている」
 ギロロがビーム吸収シールドを着用しているとの予測の上での狙撃だったのだと、ガルルは言外に告げる。声の届く範囲だというのに、その手に持たれているのはまだライフルだった。構えてから発射までの速度では、完全にギロロに分がある距離である。
「だが…お前に私は倒せない」
 呟くように言うが早いか、ガルルの姿が一気に上空に舞い上がった。距離を縦向きに取られ、慌てたようにギロロは銃の引鉄を引くが、急激な方向の変換に照準を合わせられるはずもない。光線はむなしく空を飛んでいくだけだった。
 返答のように打ち下ろされてくる光線を避けて飛ぶギロロの耳に、ボシュッと銃にしては大きな音が届く。
 振り向いたギロロに向けて飛んできているのは実弾だった。それも、目視できるくらい弾速が遅い。何だこれはと思いながらも、容易くかわせる速度のその弾を避けるために、ギロロは方向転換をした。
「な…っ!?」
 あろうことか、方向を変えたギロロを追って、その弾も方向転換をする。何度よけようとしても同じだった。ぴたりと後をついてきて、ジワジワとその距離を縮めてきている。
「歩兵用スローホーミング…。完成していたのかっ!」
 通常のホーミングはミサイルだ。速度があるので、急激な方向転換は行なえない。追尾するべきターゲットは宇宙船や戦闘機であり、その大きな目標であれば、十分に威力を発揮できる。その能力を歩兵用の火器にも応用できないかと開発を進められていたのが、歩兵用ホーミングだ。ターゲットをロックできさえすれば、相手がどう動こうとも、誰でも外すことはなくなる。だが、ターゲットが小さいだけに微調整を行なえる遅さが必要になり、難しいと言われ続けていた幻の兵器だった。
 撃ち落そうとするが、逃げながらでは小さくて照準が合わない。振り切るしかないかと、ギロロは大きく距離を取ろうとする。−−それこそが、ガルルの望む行動だった。
 小刻みに動いていたギロロが、距離を取ろうと一直線に空を駆ける。絶好のスナイプチャンスだ。
「退場だ、ギロロ」
 呟くガルルの手に持たれたライフルが、日光を反射してキラリと光る。撃ち出された実弾は、正確にギロロの背に装備された飛行ユニットの基部を破壊していた。



 基地の電気が突然消えた。すぐに回復したが、通路を走っていたケロロは立ち止まって何事かと周囲を見回す。
「こう言うとき、通信が行なえないって不便でありますなぁ」
 どうしたのかとクルルに聞きたいところだが、司令室に戻って直接訊ねるしか方法がない。今はそれよりもタマゴの探索だと、再び歩を進めだした。
「Eブロック、Bブロック…後、通り道はー」
 ケロロの部屋から会議室までの通り道、そしてその隣接ブロック。タマゴが置かれていると思われそうな場所から各部屋を覗いてみているが、まだ発見には至っていない。
「ゲロ…? シャッターが降りているであります」
 分かれ道で防護壁が降りているのに気付いてケロロは足を止める。余所見をしている間に、あちこちで通路が遮断されだしていた。
「ゲローっ!?」
 うろたえつつ、司令室に戻る道を駆け出す。だがそれも、すぐに閉鎖されてしまった。
「司令室から出ているとは、気付かれたようですな、ケロロ軍曹殿」
「ガ…ガルル中尉殿…?」
 背後の防護壁が開かれ、一人の人物が歩を進めてくる。それがガルルだと見て取ると、ケロロは目を丸くして狭い周囲に視線を馳せた。
「奪われた…のでありますか…?」
 クルルがサイバー戦で負けたのかと、信じられないように呟く。
 ガルルがここに来ているということは、ギロロも敗北だ。ドロロはアサシンとの対決で忙しく、タママの勝敗は分からないが、基地のシステムを奪われた以上は帰れない。
「やはり、ここにあるのでありますな」
「その通りです。貴方の部下達の活動停止は確認されました。尤も、ゼロロ兵長は未確認ですが」
「…みんなが…」
 ギロロ、クルル、タママの三人の敗北を告げられ、ケロロは視線を落とす。だが、まだエッグハントは続けられる。他でもない、ケロロ自身がまだ残っている。タマゴの行方は絞られた。見付けて入手すれば、大逆転だ。
「貴方の新しい部下達の働きを見せるために、敢えてこちらから仕掛けさせていただきました」
 どうすればガルルを出し抜けるかと考えていたケロロの耳に、ガルルの声が届く。
「我輩の…?」
 その内容を聞きとがめ、視線を上げてガルルを見詰めると、少し笑みを浮かべてケロロは返す。それはいつもの笑みではなく、どこか冷たい印象を与える、みんなには見せたことのないものだった。
「ターゲットが何の卵か感付かれているとは思いますが、もう一つの可能性も指示されております。その判断のために、私が隊長『代理』を務めさせていただいている次第です」
 小隊の最小人員は五名だが、ガルル達は四人しかいない。あと一人、足りない。足りない人員は他でもない、隊長だ。
「貴方自身が我々の隊長となるに値すれば、クローンと交換する必要はない、との内示を受けました」
 ケロロは隊長の素質を持つ者だ。素質持ちにはクローンが用意され、何かがあれば新たな素体と入れ替えられる。極一部の重要人物にクローンが用意されていることは一般兵には隠されており、ケロン軍精鋭のエリート士官であるガルル中尉がガーディアンとして現れた時点で、ケロロはエッグハントのターゲットが何なのか理解していた。
 今回のエッグハントのターゲット、それは、ケロロのクローンの卵だ。エッグハントの失敗は、ケロロ自身の消滅(還元)と直結している。だが、別の道も用意されているという。
「我々は新たな『ケロロ小隊』として、ポコペン侵略の特殊先行工作部隊となるべく編制されています。今のメンバーを無碍に扱うこともしないでしょう。貴方自身が隊長であれば、尚のこと」
 任務失敗のペナルティはない。元隊員の扱いも悪くならない。ケロロ自身も続投可能だ。この上ない好条件を出され、ケロロの気持ちが少し揺らぐ。しかし。
 エッグハントはみんなの意志だ。今の五人で明日を迎えようと、約束した。
 これだけは譲れないのだと、ケロロは真剣な面持ちでガルルに対し、綺麗な敬礼をしてみせていた。
「生憎、我がケロロ小隊はあきらめが悪いのであります」
 敬礼をしていた右手がすぐ側にある階級章にのび、ケロロの姿が消える。超空間移動だ。
「トロロ、基地の空間を隔離!」
『プププ、もうしてるシ。とりあえず、基地の中で移動できる範囲は限られてるヨ』
 タマゴのある部屋は、超空間移動では出入りできなくしてあるとトロロは告げる。通路は防護壁で寸断されており、辿り着くには壁の破壊、またはシステムの奪回が必要だ。ケロロ一人では難しい。
「我がケロロ小隊は、ですか…」
 消えたケロロに向け、ガルルは愉快そうに呟く。
 その表情は、ケロロが続行を選択したことを喜んでいるかのようだった。



続く

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たぶん次で終話。24時をふまえつつ、ちょっと違うって感じの話ですな。で、ここから逆転ってどーすんですか。そりゃもう、クルえもんの出番でしょう、みたいな? ネタばらすなよ。


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