エッグハントを成功させるにはどうしたらいいか、二人で真剣に話し合った。基地のシステムを奪い返す方法、ターゲットの位置を収得する方法、ガーディアンをかわす方法。あらゆる可能性、不測の事態への対処。それぞれについて、『五人』がどう行動すべきか。
「根本的な部分でコケたら、我輩気力が萎えるかも」
「クック〜。そんな心配、微塵もしてねぇくせによく言うぜぇ」
「ま、信じろって言われちゃったしねぇ」
「…その内削除してやる」
「イヤン、クルル曹長のえっちぃ〜」
「何でだよ」
 肩を落としたクルルに笑みを見せ、ケロロは準備運動のように腕を回した。
 今から始まるのが、恐らくは最後の悪あがき。成功しなければタイムリミットを待つまでもなく打つ手はなくなり、ゲームオーバーだ。
 そんな背水の陣のような背景を背負いつつだが、何とも緊張感のないやりとりをして、二人は少し笑うと背筋を伸ばす。
「行くでありますか、クルル曹長」
「了解、隊長」
 コントロールパネルの中央にクルルが腰かけると、コードが延びてきてヘッドフォンの付け根へと接続される。同時に追加のコンパネがクルルの回りに展開した。
 どうしようかと思うくらいカッコイイと、ケロロはそんなクルルを眺めて少し照れる。たぶん思うままに口にすれば、クルルの眼鏡が割れるのだろう。それはそれで面白そうだが、出端をくじくのははばかられた。いつか言ってやろうと、こっそり笑みを零す。
「さあ、モーニングコールだぜえ…」
 ケロロの企みに気付くこともなく、クルルは楽しそうに宙で指を動かし、その指先をキーボードに落とした。
 まずはみんなの状況確認だ。そのためには、システムの奪還が必要である。
 基地のシステムの奪回やその他の作業は、全てラボのシステム経由で行なうことにした。そこはクルルの最強セキュリティが施された強固な城であり、そう簡単に突き崩せはしない。それでも奪われることは想定の内で、メインシステムの存在に気付かれるのを遅らせるために必要な囮だった。



 システムの初期化及び再インストールは超高速で行なわれた。前線基地を手中に収めていたトロロも一瞬何が起こったのか分からないほど、それは迅速な作業だった。
 瞬時にして基地のシステムを取り返したクルルは、通信を通してこの上なく不快な音をかき鳴らす。

「ぬぉわっ!?」
 黒板を爪で引っかいたような音を大音量で聞かされ、地面でノビていたギロロが跳ね起きる。
『ちょっ、クルル曹長! ナンて音聞かすのさ!』
『ク〜ックックック…ぐっもーにんえぶりわ〜ん』
 続いて聞こえたケロロの苦情とクルルのふざけた物言いに、我に返るとギロロは通信機に手を伸ばす。
『隊長、Cブロックだ。わりーが送信オンリーだ』
 通信を行なおうとしたが、クルルの一言で口を閉ざすと、続きを待つことにする。ガルルに撃墜されてどのくらい時間が経っているのか分からないが、まだケロロとクルルが活動中であるらしいことから、戦線復帰は可能なんだと身構えた。
『総員、中央大ホールを目指せ。方法は「任せる」。ダート1はドコかにいる。以上』
 唐突に始まって繰り返すこともなく唐突に切られた通信は、緊急性を告げている。背景には、タカタカと何かを叩く音が高速で響いていた。
 一時的に通信機能を取り返したらしいクルルが、とりあえず必要な情報を流してきたようだった。
 目的地は基地の中央大ホール。そこにターゲットがある。そしてそこへは通常の方法では向かうな。ドロロは通信が通じないところにいる。だが分かり易いところにいるので、集合場所を知らせろ、と。そんなところだ。
 クルルの側にいたらしいケロロは、一足早くCブロックにあるホールに向かっているはず。隊長に活動をさせるなど、実戦部隊として失格もいいところだ。ギロロは素早く駆け出し、呼び出せるか分からないがソーサーを次元転送で召喚する。
「まだイケるようだな」
 側に現れたソーサーに飛び乗り、宙に舞った。
 ガルルにやられる前に通信ができなくなったのは、基地のシステムが敵側に奪われたからだ。それは通信システムでしかないが、クルルから一部を奪う能力があるのであれば、基地の他のシステムも無傷とは限らない。次元転送が生きている内に武器を入手しておいた方がいいだろう。
「ギロロせんぱ〜いっ!」
「む? タママか」
 どのレベルの装備でいくかと考えていたギロロの耳に、タママの呼びかけが届く。やはりソーサーに乗って近付いて来たタママは、満身創痍といってもよさそうな出で立ちだった。
「…お前もしてやられたか」
「このくらい、かすり傷ですぅ」
「その元気があれば十分だ」
「ところで、クルル先輩の言ってた意味がよく分からなかったんですけど」
 やっぱり不快な音に叩き起こされたタママは、とりあえず意味をなした中央大ホールを目指せという言葉通りに基地に向かっているところだという。ギロロは己の見立てを説明しようとしたが、視界の端に不気味な影柱が立っているのを捉え、その方向を向いていた。
「あれのことか…。タママ二等!」
「はいですぅ!」
「あの中に、ドロロがいる。クルルの言葉を伝えろ。俺は一足先に基地に向かう」
「了解ですぅ」
 ドロロは伝言を理解するだろう。今は突入方法を分かっている己が早く基地に向かう方がいい。そう判断し、ギロロはタママをドロロの元へと向かわせる。そこが暗殺界だと知っていれば出なかった案だろうが、結果としてはいい選択だった。

 クルルの言葉もギロロの命令の意図もよく分からなかったが、作戦中は上官の命令は絶対だ。たぶんドロロに伝言を伝えれば説明はしてもらえるだろうと、タママは暗殺界の手前でソーサーを降り、不気味な雰囲気をかもしだしている空間へと足を踏み入れる。そこで見慣れない景色に躊躇っていた。
「な…何なんですぅ? ココ…」
 岩場が宙に浮いた空間は、広いのか狭いのか、それすらも分からない。しかもその岩場が、次々と壊れて行っているのだから尚更だ。右側の高い位置にある岩が切り取られたかと思ったら、瞬時に左下方の岩場が崩壊したりする。何かが移動しているらしい気配と金属のぶつかる音、それに伴う閃光はあるのだが、視界には人影も映らない。
「まさか…ドロロ先輩がナニカと戦っているってことですぅ?」
 格闘の腕には自信があった。しかしいつもはのほほんとしたドロロの戦う姿すら視界に収められないことで、タママは悔しそうに肩を落とす。
「…ナンか…チョーむかつく…」
 格下だと思っていたタルルにすらしてやられたことも思い出し、タママの回りをどす黒い空気が渦巻きだした。ブツブツと妬みを呟き、益々周囲は暗くよどんで行く。
「−−みんなの嫉妬をちょっとずつといわず、メイッパイ分けて欲しいですぅ…」
 タママが眼前に差し出した掌へと、暗い空気が固まって行く。それは大きさを増し、頭上へ掲げるころには特大の塊へと成長していた。
「ナンか知らないけど、ブッ飛ばす! 超嫉妬玉ぁっ!!」
 八つ当たりだと知りつつも、タママは特大の嫉妬玉を宙に向けて放り投げた。ナニカがどこにいるかは分からないが、凄い速さで移動しまわっているのだから、必ずその動線には触れるはずである。ドロロごとぶつけるつもり満々の、タママらしい攻撃だ。
「っ!?」
 突然下方から飛び込んで来たどす黒い塊に、跳躍しつつ戦っていたドロロとゾルルが慌てて回避運動をする。互いしか見えていなかった空気を払拭するには十分だった。
「た…タママ殿!?」
 我に返ったドロロがタママを見付けて叫ぶ。ゾルルもタママに気付き、忌々しげに爪を鳴らした。
「危ない!」
 ゾルルの攻撃がタママに向けられたのに気付き、ドロロはタママを抱えて飛ぶ。間一髪のところで斬撃は後方を通り過ぎ、二人は岩の陰へと飛び込んでいた。
「タママ殿、どうして…」
「クルル先輩からの伝言ですぅ」
 己が喰らいかけた斬激が地面に残した傷跡を眺め、冷や汗をかきながらもタママはドロロにクルルの言葉を告げる。その間もゾルルの攻撃は続いていたが、あちらこちらへと避けながらの報告だった。
 タママの言葉に一瞬目を丸くしたドロロだったが、すぐに真剣な顔をして頷いた。
「基地に向かうでござる。最早、ここでの足止めに意味無し」
「どう言うことですぅ?」
「説明は後ほどに。一刻を争う」
 鬼式を解除すると、ドロロはタママの手を引き、反対の手で印を結んだ。
「朧分身、新・暗殺術、虚偽技!」
 ドロロが気を込めると、何人ものドロロが周囲に現れる。分身達を目くらましに残し、ドロロはタママを伴って暗殺界を後にしていた。
「逃…げた、か…」
 全ての分身を切り刻み、その手ごたえのなさにゾルルがドロロはもういないことに気付いたのは、ほんのわずかな時間の後。だが行き先など一つしかないと、すぐに己の作った暗殺界を消去し、日向家地下秘密基地に向かって行った。



 一息で取り返した基地のセキュリティシステムに、全ての防護壁の解除を命じる。同時に生体反応の表示を行なったクルルの目の前のモニターには、稼動中の防護壁の動きと誰かの居場所が表示された。
「隊長、Cブロックだ」
 防護壁が多く稼動していたのはCブロック。声をかけると、ケロロはすぐに駆け出した。
 二つの生体反応が中央大ホールにあるのを確認し、すぐさま監視カメラの映像を呼び出す。それが紫と水色であるのを見て取ると、ガルルとタルルが直接的な守備についているのだろうと判断し、一同に向かうよう告げた。
 その間も奪い返した基地のシステムを再度攻めてきだした敵に対処している。ギリギリで通信の内容は傍受されなかったはずだ。
「クック〜、さすが」
 外に出ているギロロとタママの反応が動き出した。第一関門は突破できたようだ。彼等が戦力として加わることができなければ、活動できるのはケロロだけになってしまうためにかなり勝率は下がるのだ。念のためにケロロ一人での行動も検討していたが、その案が不用になったことは喜ばしい。
 暫くはセキュリティと次元転送システムは確保しておきたい。そのためには、通信システムを奪われても問題はないだろう。指示が必要な男達ではなかった。
 通信システムを囮に使うかと、敢えて守ろうとする動きを見せることで敵の動きを操作する。
「さあ、楽しもうぜぇ…?」
 サイバー戦は裏方だ。どんな激戦も、華々しさはない。重要なのだが、賞賛されることは滅多にない。
 だからこそ楽しいのだと、クルルはせわしなく頭と指を働かせながら、愉快そうに笑っていた。

 Cブロックは日向家の建物から少しはみ出た部分に位置している。中央大ホールとなると、微妙に敷地内からも出ていたはずだ。ということは、庭を「経由」すれば、建物を壊さずとも辿り着けるだろう。
「確か…あの辺りに」
 日向家にはクルルの作った変なギミックが大量に設置されている。庭も例外ではなく、クルルがひょっこりと現れる場所、そこは地面でなはく、通路だ。
 ギロロはランチャーを構え、クルルが出てきていたと思われる場所を狙って発射する。思惑通り地にはぽっかりと穴が開き、機械仕立てらしい壁が姿を現していた。

 中央大ホールは、その名の通り広い。出入口前まで容易く辿りついたケロロだったが、中へ入ることもなく近くの部屋に身を潜める。中からの話し声など聞こえるはずもなく、人の気配も感じない。それでも暫し待機の姿勢を取って、活動開始の時を待っていた。
 どのくらい待機していたのか、軽い地響きが基地の床と壁を揺らす。唐突に開いたホールの出入口から、煙が廊下へと流れ出てきた。続けて起こる爆音と射撃音。ギロロが来た!と、ケロロは煙に紛れるようにホールへと身を滑り込ませた。
「既に勝敗は結している。見苦しいぞ、ギロロ」
「勝負がついているだと? 笑わせるな」
 銃撃戦を行ないながら、ガルルの言葉に応えてギロロがニヤリと笑みを浮かべる。
「確かに俺は貴様に負けた。だが、『俺達』は、まだ負けてなどいない!」
「そうですぅ!」
 唐突に増えた声に、タルルが息を呑む。ギロロの隣に、タママが現れていた。そしてその背後には、ドロロの姿がある。
「拙者らは、負けぬ!」
 ドロロはあらぬ方を向いて睨んでいる。その視線の先を追うと、壁からにじみ出るようにゾルルの姿が浮かんできた。
「個別の戦力で劣っているものが、団体戦で勝てると思っているのか?」
「試してみるがいい、ガルル!」
 銃を撃ちながら駆け出したギロロの前に、タルルが立ちふさがる。一瞬見えなくなったガルルの回りにピットが現れ、ギロロに照準を合わせた。だがそのピットをタママインパクトが一掃する。その間に、ギロロの銃がゾルルを狙う。ガルルへの攻撃はフェイクだ。ドロロはタルルを弾き飛ばし、ギロロへの一撃を防いでいた。
「おいらは先輩に勝ったはずっす! もう一回、倒してみせるっす!」
「小さいな、タルル」
 部屋の端へと飛ばされて起き上がると、タルルはタママに向けて駆けてくる。そんなタルルに小さく笑みを見せ、タママはドロロに対峙していたゾルルの足元を払った。
「俺達の勝敗は一人のものじゃない」
 静かに告げた一言だったが、それはビシリと決まってタママをこの上なく男前に見せた。
「せ…、師匠…」
 これは、一度個人での勝負には敗れたものの、仲間の重要性に気付いてパワーアップした友情モノの主人公という−−アソビ。
 完敗だと思いつつ、ならばその土俵に上がるのが弟子の勤め。気を引き締めて、ガルルやゾルルのフォローにタルルは回りだしていた。
 混戦を敢えて選択したギロロ達は、互いにカバーしながら不足部分を補い合う。珍しい連携プレイだが、合わせたこともないのに不思議と息が合っていた。
 その様子を部屋の隅の暗がりでじっと見ている者がいる。ケロロだ。日和っているのではない。ケロロにしかできないことをするために、今は傍観者に従事している。
−−たぶん隊長にしか、できない仕事だ。
 クルルはそう言って笑っていた。中間管理職様ケロロ軍曹の面目躍如の場面なのだと。
 ガルルだけは、確実に卵の隠し場所を知っている。他のメンバーは知っているか知らないか。どちらでもいい。卵のある部屋での戦闘になれば、守るべき卵を破壊してしまうわけにはいかないので、ガルルは絶対に隠し場所を避けようとするはずだった。ガルルほどの腕があれば、そうと気付かれないように上手く誘導するだろう。だが、その微妙な規制を見つけ出せば、この広い部屋でもターゲットの捕捉は可能になる。そのためには卓越した観察眼が必要だった。専門職であるギロロやタママ、クルルには難しい。ドロロは注意していれば気付けるかもしれないが、戦闘に集中して欲しいし卵の形状を知らない。人を見る目が必要な小隊長であり、ターゲットが何かを知っているケロロが、一番の適役なのだ。それに、ドロロでは絶対にできない理由がもう一つある。
−−見付けた…っ!−−
 始め、それはただの違和感だった。ガルルの戦う様はまるで計算され尽くしているかのように調和がとれている。不意な攻撃への防御も完璧だ。だが、時々調和が乱れる。それが部屋のある一点への延長線上であることに気付いた時、ケロロは卵の隠し場所を確信した。
 気付いても暫くは動かず、戦線が離れた時を見計らって、ケロロは一息に駆け出す。気付かれても、みんながいる。すぐには攻撃は届かないだろう。
 離れた場所から部屋の隅を走るケロロに気付いたガルルが、銃を持ち替えてその動線を絶とうとする。しかしすぐにその銃身は弾かれ、あらぬ方を向いた。続けて加えられた攻撃に、ケロロへの対処をする余裕を持つことができなくなる。
「そこまでであります!」
 ケロロの宣言に、戦闘を行なっていた一同の注意が向けられた。ガルルはここまでかと、銃口を下ろす。
「ターゲットは我が手中にあり!」
 その手に小さなケースを持ち、ケロロが得意げに胸を張っている。遠くてよく分からないが、その小ささにガルルを除く五人は動きを止めて疑わしげな表情を浮かべていた。
「あれが、生物兵器の卵なんですぅ…?」
「ハッタリっす!」
 若い二人が真っ先に疑いの声をあげる。しかしガルルは首を横に振り、無言の内に否定していた。
「では、エッグハントは」
「成功…でござるか…?」
 遅れてジワジワと嬉しさがこみ上がる。拳を握り締めて身を縮めたギロロが、その手を振り上げた。
「やった! よくやったぞ、ケロロ!」
「ケロロ君! やったね!」
「さすがですぅ、軍曹さん!」
 ケロロと駆け寄ってその健闘を称える三人を見遣り、タルルはガクリと地に膝をつく。ゾルルは爪を鳴らすとその姿を消した。
「ちょ、ちょっと待ってね」
「ん?」
 三人に囲まれたケロロが、少し複雑な表情を浮かべてしゃがみこむ。その様子に気付いて、ガルルはどうしたのかと眺めていた。背を向けて座り込んだケロロが、足元でゴソゴソと何かをしている。
「…やられた」
「へ?」
 渋い顔をして呟いたガルルを、涙目でタルルが見上げる。始めこそ苦渋の表情を浮かべていたガルルだったが、見る間に愉快そうに変わるのを、不思議そうに眺めていた。
「ミッションコンプリートであります!」
「な、お前っ!」
「ケロロ君…」
「ありえないし…」
 今度は驚愕と呆れた声がタルルの耳に届く。いいかげんに我慢の限界だったのか、ガルルは笑い出した。暫く笑い続け、漸く落ち着くとケロロ達に向き直った。
「ケロロ軍曹殿」
「ケロ?」
「そのフェイク、貴方…いや、君らしい」
 始めにケロロが掲げて見せたカプセルは偽者だ。そのことに気付き、ガルルはケロロに騙されたことを理解していた。戦闘を終わらせ、落ち着いて本物を捜すためのハッタリだったのだ。
 だが、捜すポイントは正確だった。だから素直にケロロ−−恐らくはクルルと二人−−の機転に負けを認めた。
 床板を外してその下に隠されていた小さなケースに入った小さな卵。ケロロがいなければ、『強力な生物兵器の卵』を捜していた者には見付けられない代物だった。どうやって基地のシステムを取り戻したのかは分からないが、オペレーターに確かな腕がなければこの部屋に辿り着くことも不可能。ドロロの足止めは確実にできていたはずだったし、ギロロもタママも一度対一の勝負で負けている。そんな経過をものともせずに対等の戦いを繰り広げたばかりか見事な逆転劇のシメがハッタリ技とは、見事すぎて咎める気にもなれない。むしろ賞賛に値する。
 この小隊に自分達は適わない。ガルルにはケロロのような真似はできない。ガルル達は、現ケロロ小隊のようには働けない。完敗だった。
「ガルル…。いいのか? お前の戦歴に泥がつくことになるんだぞ。それもこんな恥かしい内容でだ」
「恥かしいと思う奴には笑わせておけばいい。俺は逆に、誇りに思う」
 素に戻っているガルルが、愉快そうに返す。真実なのだから、てらいもない。
「ケロロ軍曹殿、今後の活躍を期待しております」
 綺麗な敬礼をすると、ガルルは肩を落としたタルルを伴って去って行く。その後ろ姿を敬礼で見送り、ケロロ達は自分達だけになったところで改めて歓声を上げていた。



 夜明け前の日向家の屋根の上に、ケロロの姿があった。その手には星のマークが入った小さな卵の入ったケースを持ち、その傍らにはガルルが立っている。
 今回はエッグハントというイベントの捕獲対象でしかなかった卵だが、いつか本来の働きをするべき時が来るかもしれない。何より、本人が持っていていいものではない。ケロン星へ持ち帰るべきものだった。
「ケロロ君、一つ訊ねてもいいだろうか」
「何でありますか?」
「君は…俺の知っている君なのか?」
 今目の前にいるのは、まだ尻尾がついていたころから知っている、弟の友達本人なのかと、ガルルは尋ねた。ケロロはすでにクローンである可能性もある。戦場とはそんなものだ。
「我輩は、そう信じているであります」
 屋根の上からでは見えないギロロのテントのあるあたりを見詰め、ケロロは呟くように言う。
 だからギロロやドロロには知られたくないのだと言いたかったが、その言葉は飲み込んだ。
「安心した。コピーまでもがその性格では堪ったものではない」
「どう言う意味でありますか」
「褒めているのだがな」
 笑うとガルルはケロロの手から卵を取り、その手の中へと収める。
「一人で抱えるには、重い。どこかで発散するといい」
「別にいーし」
「クルル曹長は知っていると思うが」
「へ?」
 今回のエッグハントのターゲットは超トップシークレット扱いだ。通常は知ることができない情報だったが、トロロは知っていたとガルルは告げる。彼の経歴を話し、今回の情報戦の成果として、トロロの上を行くであろうクルルの技術を持ってすれば卵の情報を入手しているはずであると締めくくる。
「クルル曹長が…」
 クルルは何も言わなかった。超トップシークレット扱いだとは言っていたが、卵そのものについてもクローンについても何も触れていない。ハッタリ作戦について論議したときも、ダミーを用意したのはケロロであり、クルルはその素材に提案しただけだった。
「評判に反していい参謀だな」
「…知っているであります」
 どこか嬉しそうに返すケロロの背を叩き、ガルルは船へと帰って行った。明るくなりだした空へと小さくなる船を見送ると、ケロロは頬を熱く感じて両手でおおう。
「あー…、もう」


 話したいことがたくさんあるんだ
 まだ後処理をしている君に、伝えたいことや言っておきたいことが

 おつかれさまとか
 ありがとうとか

 どうしてそんなに望むことがわかるのかとか



 そんな君が、大好きだとか



+++++++++++++++++++++++

終わったー。結構24時ネタ入ったね。今回はクルルがケロロをどう思っているかに敢えて触れずに。他とネタかぶるしね。相変わらず考え無しな進め方だったので、最後が気持ちよく長くなりました。4辺りからそんな気はしてたんだ…。何にしてもこれにて終話であります。ちゃんとクルケロになったぜイエー。


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