「何にでも惚れる惚れ薬? 何でそんなモンが?」
「夏美殿がこともあろうにガンプラを侮辱したのであります! 何の役にも立たないとか、場所と金と資源と労力とその他もろもろの無駄とか、このロマンを分からないオバカサンにガンプラの素晴らしさを叩き込んでやりたいのであります!!」
 怒り心頭といった体でクルルズラボに駆け込んできたケロロが、何故かクルルに惚れ薬の作成を依頼してきた。聞けば夏美とガンプラのことで口論になり、非情に立腹したとのことだ。夏美をガンプラ好きにさせ、ガンプラをバカにしたことを謝らせたいのだという。
「…ク〜ックックックッ、そりゃまた、随分とアクティブなご意見で」
 地球侵略には全く関係のない発明品の作成依頼だが、夏美を「謝らせたい」とは、ケロロにしては随分と思い切った主張である。ことガンプラに関しては無駄に情熱を注ぐケロロを愉快そうに笑い、クルルは掌を差し出した。
「ほんじゃ千円」
「ケロ?」
「ま、後払いでもいい」
 代価を要求したかと思ったら、ケロロの返事を待つ事もなくクルルはモニターへと向き直る。そのまま、出来たら呼ぶと一言発しただけで、後は何かしらの作業を始めてしまった。
「…マジで作んの?」
 ややあって、漸く我に返ったケロロが声をかけるが、クルルの返事はなかった。



 ちょうど、桃華から極秘裏に同じ薬の依頼があっていた。
 薬に頼るなんてばかばかしいと、依頼を受ける気なんてなかった。だから、冗談と分かるように報酬は世界の一流シェフのレトルトカレーなんてふざけた物を要求していた。
 しかし、ケロロの一言で気が変わった。
 ばかばかしいと思いつつも、魅力的なのは確かだ。その誘惑に負けて自分が使ってしまうかもしれない、そんな危惧があったので、作りたくはなかった薬だ。
 ケロロと己には効果が出ないようにしなければならない。
 クルルは暫し考え、惚れ薬に特約を設けることでその問題点を解消することにした。

 桃華の依頼は通常の惚れ薬だったが、ケロロの依頼は物にも惚れることが出来るものなので、取説を見もせずにうっかり瓶の蓋を開けた桃華のお陰で日向家は愉快なことになってしまった。
 瓶に惚れたポール、コーラに愛を語るタママ、携帯ラジオにときめく夏美。ギロロに至ってはミサイルに迫った挙句、爆発に巻き込まれている。その中、ケロロは。
「…嘘だろ、オイ」
 監視カメラでケロロの様子を観察していたクルルは、洗濯機と愛のローリングをキめているケロロに、愕然と言葉を漏らす。
 ケロロは色恋沙汰に関心がないはずだった。タママやモアのあからさまなラブラブ発言をサラリと受け流し、見合いよりもガンプラを取る男なのだ。いや、それ以前に、ケロロは隊長の素質を持っている。色恋沙汰はタブーであり、習い性として避ける癖がついているはずだ。そのために惚れ薬には「恋愛に関心のない者には効果が及ばない」という特約を組んだのだ。
 惚れ薬は気化しやすい成分でできている。それを作ったラボ内にも当然充満しており、日向家よりも濃度は高い。桃華とポールが受け取りに来た際には一旦空気洗浄をしておいたが、手早くメインの部屋だけの洗浄だったので、他の場所から漏れ出してきているはずだ。その中いつもと変わらずモニターを眺めているクルルは、「関心がない」側の者ではない。
 レシピを組んだ際に気化しやすい薬なのはすぐに分かったが、もう一つの特約があるために、クルルは気にすることなく調合を行なっている。もう一つの特約は、「既に惚れている相手には効果がない」こと。薬を吸い込んで始めに見るモノが惚れている相手ならば、いつも通り。変わらないのは、モニターにずっとケロロを映し出していたからだった。
 クルルはケロロに惚れているのだと、自覚している。
 ケロロにこの薬が効くのだと知ってしまうと、使ってみたくなる。
 そして使ってみたくなる己が気に食わない。
 だから作りたくはなかったんだと、クルルは大げさに溜息をつくと天井を仰いでいた。



 暫くして薬の効果も切れ、日向家は平常を取り戻す。何故自分は洗濯機で回っていたのかと、ケロロは首をかしげながら−−やや千鳥足で−−自室に戻って来た。床に広げた作りかけのガンプラを見て、クルルに依頼した発明品を思い出す。
「クルル曹長〜」
 できたら呼ぶとは言っていたが、進捗状況が気になってケロロはラボへと足を運んだ。呼び鈴を押すと返事を待つ事もなく呼びかけながら中へと入る。
「っ! 入るな、隊長!」
「へ? 何? どしたの?」
 突然怒鳴られて、ケロロはたたらを踏むと立ち止まる。目の前にいるクルルを驚いたように見詰めて固まった。クルルが何故だか焦っているようで、何かトラブルかと不安になる。
「ど、どうかしたでありますか?」
 少し、空気がピンク色のような。そんなことを考えながら、ケロロは困った顔でクルルに訊ねた。
 まだラボには惚れ薬の成分が残っている。吸い込めば、また始めに見たものにケロロが捕らえられる。そのために制止を告げたクルルだったが、変わらないケロロを不思議そうに見詰め返した。
「どうかしたかって…、え…?」
 珍しくもぽかんと口を開けて固まってしまったクルルに、ケロロは首を傾げる。

 どうしたのだろうと再度訊ねようとしたケロロの目の前で、クルルの顔が赤く染まっていった。



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喧嘩をしたのはケロロと夏美。

アニケロでの惚れ薬ネタです。えーっと、第269話「桃華 ホレたハレたの大騒動 であります」のヤツ。いいネタ投下してくれやがって!とばかりに踊ってみました。たぶん誰かもやっていそう。…リク内容に合ってる?微妙(即答) すみませんorz


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