「…もう、ね。驚かないから、我輩」
「いや、驚くべきだろ、コレは」
「隊長殿、怪我はござらんか?」
「こいつは一体何なんですぅ?」
「ロボットじゃね? ク〜ックックック…」
 翌日。再び転送ポッドの向こうの世界へと探検にでかけたケロロ小隊の面々は、何もいないだろうとの予想を覆す襲撃を受けた。突然茂みの中から襲い掛かってきた何かをギロロが咄嗟の判断で撃ち抜き、それはケロロの足元に転がっている。
「動物型ロボットだな。捕食者系だ」
 パチッとショートした電気を飛ばしているその物体は、中型の犬程度の大きさをしている。四足歩行の移動形式を持っていることが形状からうかがえた。
「んじゃ…アレは…?」
「鳥型ロボットみてぇだな」
 空を指差して呟いたケロロの質問にクルルが答える。空を無数の物体が飛んでおり、光を反射して金属色にきらめいていた。
 昨日の時点では普通の虫以外に動く物は見かけられなかったが、今日はそこかしこで何かの音が聞こえる。伸び放題だった草むらには獣道らしきものがあり、木の枝や幹には何かが付けたらしい傷跡やかじられた跡があった。
「生命の息吹を感じるでござる。されど、どこか異様」
「強敵の気配がビンビンキてるですぅ」
「そうだな。何かに監視されているような感じがある。昨日はなかったものだ」
 ギロロが厳しい目を向ける先で下草が揺れる。そこに、何かがいた。
警戒しつつ移動をすると、ギロロが倒したロボットの残骸の側へ、別のロボットが姿を現す。少し小さいが、やはり四足歩行の動物型ロボットだ。
「ちょっと待ってくれ、隊長」
「どうしたでありますか?」
「食ってる…んじゃねぇか? アレ」
「は?」
 一同が振り向くと、機能を止めたロボットを分解している小型ロボットの姿があった。口のような開閉部分で器用にばらし、そのパーツを取り込んでいる。
「確かに、食べているという表現が似合うようでござるが…」
 ロボットがロボットを食べるなんて話は聞いたことがない。掃除ロボットであることも考えられるが、それではバラす必要性がなかった。丸ごと運べばいいのである。
「こりゃぁ…暫く帰れないな」
「どういうことですぅ?」
「ここはとんでもなく時間の進みが速い。恐らく宇宙標準時間の秒単位が一年だ」
「何だとっ!?」
 時間の違いを確認するために変化を見ようと、クルルはポッドの出入口にカメラを仕掛けてみた。その映像は、超高速で再生しているかのように変化を続けた。森が育ち、地形の変化するさまが、まるで生物の拍動のように目まぐるしく起こっていた。
出入口の近くは互いの時間が混ざっているらしく周囲ほど素早い変化はなく、そのためか移動の際に時間の違いを感じなかったようだ。
「こっちにきた途端に時間の違いの影響を受けるようじゃ、全員が移動するのに数年かかっちまうからな」
 時間を濃度の違う水のように説明するクルルの説明で、分かったような分からないような複雑な表情で一同は頷く。
「じゃあ、ここで数年遊んで帰っても、一分も経っていないってことですぅ?」
「ああ。逆浦島現象(地球の物語に変換訳)だな」
「何故このような違いが起こっているのでござるか?」
「さあ」
 クルルに分かるのは、起きている現象だけだ。それが自然な物なのか人工的な物なのかも分かりかねる。 
そして確実に言えるのは、現在ここには生物がいるということ。
「機械には必ず製造者が必要だ。どこかに知的生命体がいるんだろう」
 自立した動物型ロボットはかなり複雑なプログラムが必要であり、ここにはすでにそれなりの技術を持った生命体がいるようである。生物が現れてから知的生命体が出現するまで、二万年はかかると言われる。虫や植物が発生してから数万年は経っているであろうこの星には、十分な時間が流れていた。
「そこで問題になるのがこの時間の差だ。放っておけば俺達にとって一日も経たない内に滅ぶかもしれないし、確立は低いが高度に進化しすぎて他の生命体の脅威になるかもしれない」
「あー…先進生命体の義務でありますか…」
 面倒そうに呟くケロロに、クルルは頷く。
 宇宙政府が確立された今、高度に発展した星の生物は、後続の生命体の保護を行なわなければならない。侵略型宇宙人であるケロン人も例外ではなく、侵略作戦は行なっても殲滅は行なわなかった。宇宙で殲滅を行なえるのは、星の断罪者であるアンゴル族のみ。彼等に与えられた宇宙特権だ。
 尤も、保護と言っても基本的には何もしない。あるがままに進化、発展、あるいは衰退して行くのを見守るのみだ。だが他の高度宇宙生命体や自然ではありえない脅威からは守る必要があった。地球風に言うのであれば、自然公園の野生生物と似たような扱いである。
この星は時間の流れ方が明らかにおかしい。宇宙法に照らせば、ケロロ達はこのままにしておくのか解消する必要があるのかを判断するために原因を解明し、場合によっては救済を行なわなければならない。一度地球に帰れば数百年はすぐに経つ。一旦立ち去れば次はどうなっているか分からないので、今活動ができるのはケロロ小隊だけだった。
「ま、見て見ぬフリをするって手もある。どうせ俺達だけしか知らねぇし」
「と…とりあえず、ちょこーっとここのヒトを探してみるであります。で、見付かんなかったらナカッタコトに」
「隊長殿」
 無責任なことを言うケロロに、ドロロが少し咎めるような口調で声をかける。ケロロは肩をすくめ、だってさぁと言い訳を始めた。
「そもそも、転送ポッドなんて我輩達は使わないであります。クルル曹長がたまたま手に入れて修理するために開けたから今ここに居れるわけで、もうちょっと入手が遅ければ、何万年も違ってたってコトっしょ? だったら…」
「その偶然が、俺達になんとかしろと言っているのではないのか?」
「うわぁ、ギロロ先輩なんだかカッコイイですぅ」
「ク〜ックックックック…(愉快そう)」
「ゲロ…」
 とりあえずは調査を行うことに意義はないらしい一同の意見を受け、ケロロは不承不承といった感じで活動を決定していた。




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